『KARA:廃墟の女王』表表紙
B16 · SOR キャラクター長編 #3

『KARA:廃墟の女王』

運ぶこと · 五つの停止点 · ひとつの道 · Red Valley

彼女は、世界を救うために、ものを直したのではない。
人々が、明日も来られるように、直したのだ。

ポッドキャスト
予備部品で、Red Valley を、救う
対談形式 · SOR — 『KARA:廃墟の女王』
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あらすじ

Red Valley という町で、三千人の人々が、水を、使い切ろうとしている。

Kara Voss は、忘れられた区域の縁で、廃材置場を、ひとり、営んでいる。発電機を直し、輸送車隊に応急処置をし、親が誰かを訊かずに、子どもに水を、手渡す。彼女は、英雄であったことが、一度も、ない。──頼れる人間で、あった。この世界では、その方が、稀である。

仕事──稼動する水浄化コアを、貯水槽が空になる前に、Red Valley まで運ぶこと。──込み入った事情──そのユニットを稼動させうる、技師の十三歳の娘。彼女は熱気について、文句を、止めない。そして──Rex Dunn。二年来、口を利いていない、かつての輸送車隊の相棒。──彼の息子が、彼女の運転する任務から、帰ってこなかった、あの日以来。

五つの停止点。ひとつの道。──蛇口にたどり着いたとき、初めて理解することになる、ひとつの選択。

『KARA:廃墟の女王』は、SOR: Singularity Reign ユニバースの、独立したキャラクター長編である。──宇宙規模ではない。〈選ばれし者〉ではない。〈世界を救う〉物語でもない。──ひとりの整備士、元兵士、ひとりの少年少女が、ひとつの装置を、砕けた風景のなかで運び、ひとつの、ありふれた町の、ありふれた人々が、明日を見られるようにする、その物語。最初に、最後に、あるいは独立に、読まれてよい一冊。

VOICE 17 · 『KARA:廃墟の女王』

意味のあるどの地図にも現れぬ、ある辺境の町で、三千人の人々が、水を、使い切ろうとしていた。

二百キロ離れた、ある火曜日の朝、ひとつの廃材置場で、ひとりの女性が、ある老人のために、発電機を、直していた。──老人は、干し肉で、支払いをすることになっていた。

彼女の名は、Kara Voss。

三十四歳。手には、傷。袖は、肘までめくり上げられていた。──彼女は、〈英雄〉であったことが、一度もない。──そして、いまから〈英雄〉になるつもりも、なかった。八年のあいだ、彼女は、置場のなかで、壊れたものを直せる女性、であった。──そして、新しいものを築くことができなくなった世界において、それは──彼女自身は、その語を使わなかっただろうが──ひとつの〈戦線を、保つこと〉、であった。

その死につつある町のことを、彼女は、聞いたことが、なかった。

そして──この物語のはじまるその朝、彼女の門へと続く割れた道を歩いて上ってきていた、クリップボードを持つあの男のことも、聞いたことが、なかった。

彼は、彼女のための、ひとつの仕事を、持っていた。

仕事は、輸送。積荷は、稼動する水浄化コアと、それを築いた技師の十三歳の娘。経路は、崩落した区域、五つの長さ。

報酬は、要点では、なかった。

報酬は、ついぞ、要点になるはずでは、なかった。

要点は──ひとつの夏のあいだ、ある道の上で、三十四歳の整備士と、二年来口を利いていない五十六歳のかつての輸送車隊の相棒と、間違ったシャツを詰めて靴下を持ってこなかった十三歳と、そして、無事に届きさえすれば、ある町を渇きで死なせずに済む、ひとつの装置と──そのあいだに、何が起きるか、だった。

これは、人々が明日も来られるように、ものを直しつづけたひとりの女性の、物語である。

これは、可能な限り大きな沈黙に対する、可能な限り小さな戦いの、物語である。

『KARA:廃墟の女王』裏表紙

背表紙

彼女は、世界を救うために、ものを直したのではない。──人々が、明日も来られるように、直したのだ。

Kara Voss は、自分の知るすべてを残し、一台のトラックと、ひとつの経路と、まだ完全には信頼できないひとりの男とともに、出る。Rex Dunn は、多くを語らない。──二人が崩壊後の辺境を貫いて運ぶものは、積荷よりも、重い。──SOR ユニバースにおける、最後の語──そして、もっとも静かな語。

ジャンル:文学SF · キャラクター長編 · B16 · 約 85,000 words

運ぶこと

彼女は、重みを、下に置いた。──それが重くなくなったから、ではない。終わりに、ひとつの蛇口があり、蛇口に水があり、バケツを持つ人々が、いたから。──〈運ぶこと〉こそが、要点だった。──ただ、止まるまで、彼女は、それを、知らなかっただけだ。

こんな読者のために

本編 SOR サーガの出来事の前に、Kara Voss と出逢いたい方──あるいは、B0–B15 の事前知識を必要としない、SOR ユニバースへの入り口を、求める方へ。『KARA:廃墟の女王』は、まったくの独立作品である。世界は、他の SOR 巻と共有するが、筋は、共有しない。──サーガを知る読者は、小さなものを、いくつも見覚えることになる。──だが、そのいずれも、必須ではない。道、車、水──それが、物語のすべて、である。

主要キャラクター

主視点 · 全14章 · 整備士

Kara Voss

三十代半ば。崩落した区域の縁で、廃材置場を営む。人々が持ちこむものを、直す。子どもからは、料金を取らない。過去について、詳しくは語らない──Rex の息子が帰ってこなかった、二年前のあの任務のことも、含めて。彼女は、レンチを、握る。ものを、直す。──世界を、救うのでは、ない。──世界を直して、もう少し、続いていけるようにする。

副視点 · 全6章 · 元兵士

Rex Dunn

五十代半ば。Kara のかつての輸送車隊の相棒。息子 Cal は、二人で組んだ最後の任務から、帰ってこなかった。Rex は、Kara と、二年間、口を利いていない。──仕事に、もう一人の手が要るがゆえに、彼は門に、現れる。二人は、抱擁しない。詫びない。──走る。彼は、Cal の名を、二十三章のあいだ、口のなかに抱えつづけてから、それを、口にする。

第三視点 · 全6章 · 13歳

Sal

十三歳。水浄化コアを築いた技師の娘。母は、亡い。校正コードを、知っている。間違ったシャツを詰めて、靴下を、持ってこなかった。こんな道も、Rex のような男も、Kara のような女性も、これまで、見たことが、ない。──終わりまでに、見ることに、なる。静電のなかで、Rex の手を、握る。彼は、手を、引かない。

テーマ

労働者階級の生存 下ろせぬものを背負って 行為としての赦し 名もなき人々の重み 仲間どうしの負い目 英雄性としての信頼 崩壊後のフロンティア 一度だけ呼ばれた名

『KARA:廃墟の女王』は、SOR の作品群のなかで、最も身体的に地に足のついた一冊である。その世界は、工具の言語で築かれている──油、レンチ、ボルト、ホースの継ぎ手。〈選ばれし者〉の枠組みも、〈戦女王〉の枠組みも、同じ強さで、本書は退ける。Kara が英雄的なのは、彼女が特別だから、ではない。──彼女が、現れつづけるから、彼女は英雄である。動けなくなった家族のために。唇の割れた老人のために。ラジオのアンテナを折ってしまった子のために。──終わりに流れる水は、比喩ではない。それは、水である。──それで、足りる。

章構成

第一幕 — 出立 · 第 1–8 章
1
「廃材置場、火曜日」Kara

Kara は、干し肉で支払いをすることになる老人のために、発電機を、直す。彼女は、この仕事が、好きだ。クリップボードを抱えた買い手が、ある仕事を、持って現れる──Red Valley まで、モジュール式の水浄化機を運ぶこと。五つの崩落区域、向こう。──彼女は、いいえ、と言う。彼は、もう一度、金額を、口にする。──彼女は、はい、と言う。

2
「コア」Kara

Kara は、水浄化コアを、検める。四百キログラム。古い。重い。──稼動する。ホースクランプを、締める。男は告げる──運用できる者が、もう一人、来る、と。校正コードを持つ、誰かが。Kara は、訊かずに、理解する。──この仕事に必要な人手は、自分一人ではない、と。

3
「Rex が、歩いてくる」Kara

Rex が、門のところに、現れる。最後に口を利いてから、二年。同じコート。──以前より、静か。二人は、抱擁しない。詫びない。彼は、訊く──〈運転手、おまえか?〉。彼女は、訊き返す──〈乗るのか?〉。彼は、うなずく。──交渉は、それで、すべてである。

4
「十三歳、疲れた」Sal

Sal の最初の視点章。叔父のアパートにいて、雑に詰めた荷物──間違ったシャツ、靴下なし、使わぬ櫛。校正コードは、知っている──母が、教えてくれたから。──母は、もう、いない。運転手と護衛が、夜明けに、来る。

5
「積み込み」Kara

夜明けの積み込み。Sal が到着する──十三歳、雑に詰めた荷物、感心していない様子。Kara は、挨拶もせずに、雑巾を、彼女に手渡す。Rex は、水を、手渡す。Sal──〈どちらも、私の母じゃない〉。二人とも、言い返さない。──彼らはコアを積み込み、走る。

6
「彼が、口にしないこと」Rex

運転席の Rex。Kara のハンドルにかけた手を、見つめる。Cal の名は、口にしない──まだ。言葉では、まだ。荷台の奥に、振り返らないで見るのを避けている、一枚の上着がある。古い歌を、半小節、口ずさむ。──止める。再開しない。

7
「停止点 一:市場」Kara

流浪者の交易拠点。天幕、発電機、煙、物々交換の伝票を走らせる子どもたち。Kara は、燃料の交渉を、する。Sal は、調理された鼠を見て、屋台の裏で吐く。Rex が、水を手渡す。Kara は、子どもの自転車の空気入れを、二分で、無料で直す。──子どもは、それを抱えて走り去る。──彼らは、また走る。

8
「玩具を、詰めなかった」Sal

運転席後ろの Sal、もう一度、荷物を確かめる。玩具を持つには、もう、年を取りすぎている。──そう決めて、それに従って、詰めた。──そう決めなければよかった、と思う。代わりに、シートベルトの縫い目を、爪で、つつく。

第二幕 — 道 · 第 9–18 章
9
「ハイウェイ」Kara

停止点 二、はじまる──水没したハイウェイ。高架の車線。下──空を映す、褐色の水。Sal は、釣りをすればよいのに、と訊く。Kara──〈もう、釣れるものは、いない〉。車線で動けなくなった一家──父親、子ども二人、エンジンが死んでいる。Kara は、自分の工具箱から動く点火プラグを譲って、四十分を、使う。彼女が運転席に戻ったとき、Rex は、一度、うなずく。

10
「古い歌」Rex

Rex は、半小節、口ずさむ。止める。Kara は、それを聴く──彼女は、その歌を、知っている。Cal 以来、彼がそれを口ずさんだことは、なかった。──彼女は、訊かない。──走る。

11
「彼女は、助けようとする」Sal

Sal は、ラジオで天気予報を、聞こうとする。──アンテナを、折る。彼女は、泣く──比喩的にではなく、現実に、泣く。Kara──〈私たちには、手がある。予備の部品がある〉。Rex は、七分で、アンテナを直す。Sal は、ビスケットを食べ、泣いていなかったふりを、する。

12
「製油所、視界に」Kara

停止点 三、近づく。地平に、油じみた煙──きれいではない。Kara は、自分のライフルを、検める。Rex は、自分のを、それから、予備を、検める。──二人は、何も語らない。Sal は、起こらなかった会話を、眠ったまま、通り過ぎる。

13
「製油所の住人たち」Kara

六人の屑拾い、不均衡に武装している。──コアを、欲しがる。Kara は、ある値を口にし、譲らない。Rex は、彼女の後ろ二メートル、右側に、立つ。屑拾いの長が、笑う。Kara は、間合いを、読み損ねる。

14
「一発」Rex

交渉は、破綻する。長が、手を、伸ばす。Rex が、彼を倒す──一発で。残りの者たちは、散る。Sal は、運転席の窓越しに、それを、見る。──その夜、彼女は、ひと言も、話さない。

15
「彼女は、慰めない」Kara

夕暮れ。Kara は、車の側面で、Sal の隣に、座る。乾いたパンを、手渡す。〈大丈夫だ〉とは、言わない。Sal は、しばらく、それを食べない。やがて、食べる。Kara は、Sal が車輪の凹みに寄りかかって眠るまで、そこに、座りつづける。

16
「死んだ男」Sal

Sal は、眠れずに、横たわっている。あの男の眼を、見てしまった。彼女は、暗がりのなかで、Kara に、訊く──〈あの人に、子は、いたの?〉。Kara──〈分からない〉。Sal は、うなずく。──ここ何か月のあいだに、大人が彼女に告げた、最も誠実な言葉である。

17
「名」Rex

Rex、見張り当番。星が、鋭い。彼は、もう少しで、Cal の名を、声に出すところだった──空気に向けて、闇に向けて、誰にも向けてもなく。──口にしない。代わりに、干し肉を、噛む。──いずれ、自分は、口にする、と、彼は知っている。──まだ。

18
「彼女が、以前に、運んだもの」Kara

翌朝、走っている。何もない平原。Kara は、以前の任務を、思い出す。Cal が、別の車の荷台に、いた。機械の故障──詳細は、ついぞ、特定されなかった。Cal は、戻ってこなかった。──彼女は、彼の名を、口にしない。──走る。

第三幕 — 到着 · 第 19–26 章
19
「停止点 四:嵐」Kara

停止点 四:静電帯、迂回は、不可能。Sal は、怯えている。Rex は、落ち着いている。Kara──〈シートベルト、しっかり。掴まって。──喋らない〉。静電のなかで、ラジオが、ある断片を運ぶ──いかなる歌でもない断片。──そして、二人はそれを、駆け抜け、向こう側へ、出る。

20
「静電のなかで」Sal

Sal は、自分が死ぬと、思う。Rex の手を、握る。彼は、引かない。静電は、大きい。──手は、そうではない。彼女は、一秒だけ、母のことを思い、それから、いつか食べたクッキーのことを、思う。──彼女は、十三歳である。

21
「ハンドル」Rex

Rex は、Kara の案内で、嵐を駆る。彼女が、曲がる、と告げる。彼が、執行する。静電が、悲鳴を、上げる。Cal の名は、二人のあいだの、空気のなかにある──なお、語られぬまま。──彼らは、外へ、出る。名は、語られないまま、残る。

22
「向こう側へ」Kara

二人は、生き延びる。Sal は、眠っている。Kara は、コアを検める──いまも、稼動している。彼女は、車から十メートル離れて、泣く。短く。一度。ひとりで。嵐の縁にいる老人が、唇を割れさせて、水を、乞う。彼女は自分の水筒を、彼に手渡す。車へ、戻る。Rex は、訊かない。

23
「彼は、それを、言う」Rex

寒い朝。Kara が、携帯コンロで、コーヒーを淹れている。Rex が、彼女の向かいに、座る。彼は、言う──〈Cal〉。一度だけ。彼女は、言う──〈知ってる〉。二人は、食べる。──そのあとの沈黙は、それ以前の沈黙とは、別物である。

情動のクライマックス。

24
「Red Valley、地平に」Kara

停止点 五──Red Valley が、現れる。低い建物。動く風車。空のバケツを抱えた子どもたちは、彼らに駆け寄っては、こない──駆け寄らないことを、学んでいる。緑のコートの女性が、引き渡しの地点を、告げる。Kara は、言う──〈持ってきた〉。

25
「荷下ろし」Kara

二人は、荷を下ろす。Sal は、コアを接続する──何時間も、かかる。彼女は、几帳面に、働く。Rex は、習慣で、道を、見張る。町の人々は、蛇口の前で、並ぶ順序を、言い争う。配管継ぎ手の壊れた女性が、修理代を、払えない。Kara は、車の工具箱から予備を、彼女に手渡し、彼女が礼を言い終える前に、もう、その場を、離れている。

26
「水は、流れつづけた」Kara

コアが、稼動する。公共の蛇口から、最初の水。人々がバケツを満たし、言い争い、一度だけ笑い、去っていく。Sal は、誰かが食べ残したシチューを、食べている。Rex は、予備タイヤを、検めている。Kara は、蛇口へと、歩いてゆく。取っ手を、回す。──見つめる。

〈彼女は、選択を、なした。/彼女は、重みを、下に置いた。/──水は、流れつづけた〉。

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